にゃんさんブログ

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【感想】ふたりの証拠|青年の苦悩が生み出した願望と虚構

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こんにちは。ニャンさん@nyankodearuです。

 

悪童日記シリーズ二作目となる『二人の証拠』。
前作のラストで双子は別れましたが、本作はその直後から開始し、おばあちゃんの家に留まった双子の片割れ『リュカ』が主体となり話は展開されます。

 

前作は双子の日記という形式で綴られ、少し無機質な印象を受ける文体が特徴でした。しかし『ふたりの証拠』では作風が一変。登場人物たちに名が与えられ、またそれぞれの感情も描写される、いわゆる普通の小説らしい構成です。

 

以下、ネタバレありのあらすじ&感想

 

ふたりの証拠 あらすじ

双子のクラウス(CLAUS)と別れ、ひとりでおばあちゃんの家に暮らすことになったリュカ(LUCAS)。以前に引き続き、日々の記録を書き連ねている。

 

ある日、リュカは赤子を連れた女性と出会う。彼女の名はヤスミーヌ。近親相姦で実の父親との間に子供を作り、帰る場所を失っていた。赤子のマティアスは生まれつき手足が奇形である。リュカは、ふたりをおばあちゃんの家に住まわせ、ともに生活することにした。マティアスを我が子のように愛し、あらゆるものを惜しみなく与える。

 

実の家族のように暮らす三人。しかし、リュカが女性司書のクララと出会うことで、少しずつほころびが出始める。クララは無実の罪で夫を殺害され、心の病を抱えていた。リュカはクララに母の面影を見出し、彼女につきまとうようになる。

 

自宅にいる時間が短くなったリュカ。それに対し不満を募らせ、ついには失踪してしまったヤスミーヌ。残されたマティアスとの共同生活は、やがて悲劇的な結末を迎えることになる。

 

終盤、ついに故郷に戻ってきた双子の片割れクラウス。かつてリュカと親しかったペテールの元を訪れ、リュカの行方を聞く。しかし、ペテールの口から語られたのは意外な真実だった。

 

ふたりの証拠 感想(考察を含む)

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なんとも悲しいエピソードが詰まった作品になりました。双子と別れひとりになったリュカが様々な人と出会い、苦しみ、別れていく。そんなお話。

 

そして、やはり『クラウス』が存在するということは虚構で、『リュカ』と『クラウス』は同一人物だったのですね。前作でも、双子はまるでひとりの人物のように描かれていましたが、その通りだったようです。

 

「クラウスは実在しない」という設定は、この本を読まれた方は早々に察したかと思います。なぜなら、司祭や書店員など、以前から関りがあった人々が、クラウスの失踪について何も訪ねてこないからです。

 

リュカは、クラウスのために日記を書いていました。つまり、クラウスは日記に書かれたことのみを知る存在、ということでしょうか。

 

リュカの日記は、前作でルールが明記されたように、実際に目にした出来事をそのまま記したものだったはず。しかし、現実は異なり、リュカは自身の都合のいいようにノートを修正していました。ペテールとの会話で、日記についてこう述べています。

 

「きみのノートは、いく貢も欠けているよ、リュカ」
「ええ、ペテール。前にも言ったように、ぼくは修正を加えますから。必要不可欠でないものはすべて削除し、抹消するんです」

引用:アゴタ・クリストフ(2001年).ふたりの証拠 早川書房

 

必要不可欠でないもの…。
自分が目にしたくなかったものでしょうか。

 

前作での双子(リュカ)は、まるで機械のように淡々と生きるための処世術を身につけていきました。感情が描写されていなかったこともあり、母が死んだときも、女中を殺害しようとしたときも、家事をするかのごとく平然と遂行した印象です。

 

しかし、本作においてのリュカは、とても繊細で嫉妬深い、世俗的な人間そのものです。母の面影を見たクララにつきまとい、また自身のかつての姿を重ねたマティアスを束縛する、これはまさに弱き人間の姿。

 

リュカは、なぜクラウスという虚構を生み出したのでしょうか。
悲しい現実から目を背けるため?
それとも「こうありたい」という、願望のようなもの?

クラウスが国境を越えた…というところに、リュカの気持ちが表われている気がします。

 

マティアスが自殺した後、リュカは日記にこう書きました。

 

“マティアスに関しては、万事うまくいっている。あの子は、学校では相変わらず首席で、しかも、もう悪夢に悩まされたりしなくなった”

引用:アゴタ・クリストフ(2001年).ふたりの証拠 早川書房

 

ここで「リュカ」としての話は途絶えます。

 

今後リュカはどうなっていくのか。
完結編となる三作目の『第三の嘘』を読みたいと思います。