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【感想】第三の嘘|憧憬した故郷で待ち受けていた現実

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こんにちは。ニャンさん@nyankodearuです。

 

悪童日記シリーズ三作目の『第三の嘘』。

 

前回で双子の存在は否定され、リュカの空想だったと結論付けられました。
…が、今作では話が一変、やはりクラウスは実在しているとのこと。というか、本作では登場人物の設定までもが大きく変わっていて、リュカはマティアス同様に足が不自由なのです。

 

高齢になったリュカの死までが描かれている本作。シリーズの完結編になります。

 

以下ネタバレありのあらすじ&感想

 

第三の嘘 あらすじ

リュカは自身の故郷で留置されていた。身分証明書類を持っていなかったからである。年齢も50歳を超え、心臓に病をかかえている。

 

リュカは自身の過去を顧みる。足が不自由のため、少年時代の大半を病院で過ごした。自分を見舞いに来るものは誰もいなく、うっぷんを晴らすため同じ入院患者に対し嫌がらせを続けていた。身寄りがない彼は、農家の老女に引き取られ、老女の死後、15歳の時にひとりで隣国へ亡命。

 

そして初老を迎えた今、故郷に帰ってきたのである。理由は、双子の兄弟クラウスに会うためだ。入院を機に、生き別れになったふたり。リュカは再開を望んでいた。

 

そして、ようやく再開したリュカとクラウス。しかし、クラウスは一向にリュカの存在を認めず、兄弟のリュカは死んだと主張する。

 

最後は自ら命を絶ったリュカ。自身の望み通り、リュカは両親のそばに埋葬された。

 

第三の嘘 感想(考察含む)

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『悪童日記』は辛い現実に直面したリュカが、現実逃避のために作り出した物語。そして、『ふたりの証拠』は日記を書くリュカの姿を描いた物語…だったはず。しかし、『第三の嘘』では、またしても設定がこれまでと一変しているのです。

 

しかも、タイトルが『第三の嘘』となっていることから、この物語すらも真実ではないと作者は述べています。

 

  • 第一の嘘:『悪童物語』
  • 第二の嘘:『ふたりの証拠』
  • 第三の嘘:『第三の嘘』

 

これらのストーリーは線上でつながっておらず、パラレルワールドのように考えるのがよいかもしれませんね。細かい点はスルーして、本作品の内容について考えていきます。

 

リュカはもともと四人で生活していました。父・母・クラウス・リュカです。
ある日、父の不倫が発覚し、痴話げんかの末に母が父を射殺。その時の流れ弾でリュカの脊髄は損傷し、下肢に麻痺が残ります。こうしてリュカは病院暮らしを余儀なくされ、母はリュカを殺したと思い込み精神疾患を発症。その後はおばあちゃんの家に引き取られ、15歳の時に国境を越えました。

 

その後は他国で生活し、50歳を超えたリュカ。自身の命は長くはないと悟り、故郷に戻り思い出に残る兄弟クラウスを探すというのが今回の物語です。この部分には著者アゴタ・クリストフの原体験が大きく影響しており、亡命した彼女の、故郷・言語・子供時代との別離の痛みを投影したものであると述べています。

 

一方、故郷に留まったクラウスの人生も悲惨でした。父の死後、母が精神疾患を発症し、頼る者がいなくなった。そこでクラウスを引き取ったのが、アントニオという女性。しかし彼女の正体は亡くなった父の不倫相手で、自身の家庭が崩壊した諸悪の根源だったのです。その後クラウスは、自らの意志で母と同居することを選択します。

 

クラウスにしてみれば、過酷な人生を送ってきたのはリュカではなく自分だという思いがあります。リュカを自らの手で殺したと思い込んでいる母は、リュカを美化し、常にクラウスを蔑む発言を繰り返します。つまりクラウスに残されたのは、自身を愛さぬ要介護者の母だけなのです。

 

祖国を懐かしむ者と、祖国で暮らし続け疲弊する者。この対比は、なんとなく私にも理解できるものかもしれません。

 

この作品において、リュカは双子の存在について、このように述べています。

 

この町で、おばあちゃんの家にいた時、自分はすでにひとりぼっちだった。あの頃でさえ、耐えがたい孤独に耐えるために自分が生み出した想像の中でだけ、ぼくら ―ぼくとぼくの兄弟― は二人だったのだ。

引用:アゴタ・クリストフ(2002年).第三の嘘 早川書房

 

重要なのは、ここで述べている想像の中のクラウスと、本作で登場したクラウスは全く別の存在だということです。自身の寂しさを埋めるために作った虚構と、実在する本人。これを混同してしまったのが、本作におけるリュカの悲しみなのかもしれません。

 

さて、本作にて悪童日記三部作は完結です。
作品間の話は線上につながっていないため、「単純にストーリーを追うこと」を楽しみにしている方には、少ししんどい内容かもしれませんね。

 

当時のハンガリーの時代背景と、それらに翻弄された人々が心に秘めた「弱さ」にフォーカスした話が多く、そういった著者のメッセージに共感できる方は、三作を通して読む価値はあると思いました。

 

 

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